霜月祭
しもつきまつり
12月、長野県の南端、遠山郷と言われる旧上村と旧南信濃町にある各地の神社で夜を徹して霜月祭が行われる。
飯田市から喬木村を通り、北側から上村へ入り、上村川沿いに南下すると上町地区に着く。
江戸時代には秋葉海道の宿場町として栄え、現在の上町は小学校や中学校の建つ静かな集落となっている。
上町系の霜月祭が行われる正八幡宮は宿場町の中に建つ神社で、すぐ横には上村川が流れる。
最初に面を付けて出てくるのは、神太夫爺と婆の舞。
地元からは「おじい、おばあ」と呼ばれて親しまれているようで、御幣を掲げて出てくる爺、榊を振り上げて見物客を叩いて歩く婆。
この二人の登場は物語になっており、老いた夫婦がお伊勢参りに行く途中でこの祭りに出会い、そのままお参りをして帰るという。
お参りをした爺の腰が伸び、婆の皺が伸びるという掛け声がユニークで、婆の榊で叩かれるとご利益があるといわれている。
続いて現れる八社は、爺と婆の騒ぎからは一転して静かな舞が行われる。
戦国時代、この地方を治めていた遠山氏は、圧政から百姓一揆に遭い、大鹿村で襲撃されたという話しがあるという。
八社は、その一族の怨霊の面と言われており、源王大神、政王大神、石清水八幡と鶴岡八幡の両八幡、住吉、日吉、一の宮、淀の明神といわれている。
八社に続いての舞は、稲荷と山の神。
赤い装束に鈴と扇を持って舞う稲荷と、荒々しい面を付けた山の神が登場すると、舞の静けさが一変する。
地元の見物客の「ヨーッセ」という掛け声が掛ると、その声に乗って舞処を飛び回る。
たくさんの見物客が集まり、狭かった建物がさらに狭くなり、押しあいながらのところに、稲荷と山の神が飛び込み周り、押されてよろける人や、倒れる人、しっかりと受け止めようとする人など、騒々しくも賑やかになる。
おそらく稲荷と山の神を知らずに見物に訪れる人たちには、迷惑でしかない時間なのではないかと思われるが、もともとそういった祭りであることと、そんな中でも外来の見物客への飛び込みが最低限になるように体を張っていた地元の祭関係者の方々の姿はとても印象的だった。
霜月祭は、「担ぎ祭り」や「押し祭り」と呼ばれる一面もあるようで、その昔、祭りの夜には若者が女性を担いで回ったという話しや、見物客が押しあいをするところから出た言葉だという。
霜月祭の中では、この時間が最も騒々しく盛り上がり、華やかなところではないかと思う。
稲荷と山の神が下がると、天狗の面を付けた四面が登場する。
水王、土王、木王、火王という四面。
水王と土王が湯を吹き冷まして、火を小さく収めるという。
木王と火王は、息を吹きかけることでお湯をより熱くするという。
霜月祭の中でもっともよく知られているシーンは、この4面によって行われる湯切りで、湯がグラグラと沸く2つの竈に、素手を突っ込み、禊を行う。
周りにも熱湯が飛ぶが、この湯にかかると厄払いになると言われている。
面の最後に登場する天伯は煌びやかな衣装に弓矢を持つ。
東西南北の方位、天と地に向って弓を引き、悪鬼と外道を追い払うと言われている。